ブレイク「日の老いたる者」(英国水彩画展より)
紅蓮の球体から身を乗り出し、
下方へと手を伸ばす男。
隆々たる肉体、真横になびく白髪と顎髭、
そして何より画面全体に充満する禍々しさは、
明らかに男が人外のものであることを象徴しています。
ウィリアム・ブレイク「日の老いたる者」。
画家によればこの男の名はユリゼンといい、
「人間の創造主! 天から遣わされ見間違われた悪魔」とのこと。
The Ancient of Days(1827 ?)
William Blake
ブレイクの「日の老いたる者」は、
「ヨーロッパ、ひとつの預言」という詩の口絵のために
もともとは版画として制作された作品だそうです。
その後手書きで彩色を施したものをいくつか制作し、
本作は死の数日前に彩色を施した最後のバージョンなのだとか。
画中の男・ユリゼンが手にしているのはコンパス。
数学や天文学にまつわるアイテムで、
同じくブレイクの「ニュートン」という作品でも描かれています。
コンパスは旧約聖書の「箴言」において創造する行為を象徴し、
物質界を分割し、混沌に秩序をもたらすと説かれているそうです。
そういえばデューラーの「メレンコリア1」でも
天使がコンパスを持っていたっけ……。
参考:ブレイク「ニュートン」
しかし、いくらコンパスを持っているといっても
「日の老いたる者」は明らかに破壊者の風貌ですね。
神であるユリゼンが、天罰を下そうとしているようにも見えます。
彼が座すのは金色の光を放つ太陽であり、
おどろおどろしい黒雲があたりを包んで……。
この作品はBunkamura ザ・ミュージアムで開催中の
「巨匠たちの英国水彩画展」で展示されていました。
B5よりも一回り小さいくらいのサイズながら
そのインパクトはすさまじく、
ターナーをはじめとする水彩画の余韻が一気に吹き飛んでしまうほどでした。
ブレイクは個人的に気になる画家ではあるんだけど、
正直この展覧会にはなくてもよかったのではないか……
と思ってしまうくらい、異彩を放っていたのです。
展覧会ではフュースリやソロモン、ジョン・マーティンと並んで
「幻想」というコーナーに位置づけられていましたが、
そのなかでもやはり別格の存在感。
幻想画家ブレイクの真骨頂といったところでしょうか。
今日も明日もがんばろう。
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