ルオー「トリオ」(アイ・ラブ・サーカス展より)
子どもの頃のあのサーカス
貧苦にやつれた小さな顔の
場末の町の貧しい子には
サーカスの光こそは太陽であり、心の夢の故郷だ
それとももしかしたら、失われた楽園の反映か
(ジョルジュ・ルオー)
Trio(1935-40)
Georges Rouault
フォーヴ(野獣派)の画家、ジョルジュ・ルオー。
苦悩や歓びやあらゆる感情を塗り込めたような
厚塗りのキリスト像が印象的な画家ですが、
実は彼の作品の3分の1はサーカスをテーマにして描かれているそうです。
ギュスターヴ・モローから譲り受けた格調高き神話の世界から離れ、
より世俗的な存在に惹かれていったのは不思議な気もしますが
あるいは貧困層に生まれた自身の血が
道化師たちの姿にシンクロしたのかもしれません。
今回の一枚は「トリオ」という作品。
題名のとおり、3人の道化師が描かれています。
中央はブルジョワ女性、右側は成り上がり女性、
そして左側は純粋無垢な道化師として描かれているそうで
サーカスというどこか閉塞した世界のなかに
社会的階層が持ち込まれています。
じっと見ていれば確かにそんな気もしてきますが、
やはり中央の女性の美しさがひときわ目をひく作品だと思います。
地位や身分を越えた普遍的な美しさがそこにあるような気がして。
内省的なブルーを背景とし、深い静けさを感じさせながらも
鮮やかな黄色や朱が道化師たちの秘めたる感情を物語ります。
苦しさに目や口を閉じていても、
心のうちには燃え盛る情熱があり
それは希望の炎でもあり、悲しい燐火でもあるのでしょう。
ルオーは「われわれは皆、道化師なのです」という言葉を残しておりますが
そんな心持ちで作品を描いていたのでしょうか。
「貴族的なピエロ」。ルオーは特別なピエロにのみ四つボタンを与えたとか。
ルオーの作品を見ていると、
ぼくは子どもの泥遊びを連想してしまいます。
体が汚れるのを気にもせず、泥を塗っては壊し、塗っては削り、
いつしか日は暮れて
西の山間から差し込んできた落日の光が世界を暖色に染上げる。
泥のかたまりでさえも美しい輝きをはらんで
その神々しさに心を打たれる……。
原始衝動の表出のようなルオーの絵には
そんな純粋無垢な歓びが満ちあふれており、
敬虔な祈りが込められています。
たとえ対象が道化師だったとしても、
やはりそこには祈念がある。
あざ笑われる道化師たちの姿に、もしかしたらルオーは
人間の罪を一身に引き受けたキリストの姿を重ね合わせたのかもしれません。
パナソニック汐留ミュージアムでは
こうしたサーカスにまつわるルオーの作品を集めた
「ジョルジュ・ルオー アイ・ラブ・サーカス展」を開催しています。
初期から晩年まで、ルオーが描いた約90点の作品を中心に、
パリを沸かせたサーカスの資料を集めた好企画。
会場自体もサーカス小屋を模したつくりになっており、
アート鑑賞にとどまらず博物的な楽しみ方もできます。
会期は12月16日(日)まで。
享楽のパリで花開き、画家を魅了した
サーカスの世界に浸ってみてはいかがでしょうか。
左:ルオー「青いピエロたち」 右:ルオー「傷ついた道化師」
ところで、先にルオーとギュスターヴ・モローについてちらっと触れましたが
来年9月、パナソニック汐留ミュージアムにて
「モローとルオー」という展覧会が予定されています。
師弟関係にあった2人の画家に焦点をあてた企画、
開催が待ち遠しいですね♪
今日も明日もがんばろう。
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