ウォーターハウス「アポロンとダフネ」
エロス(キューピッド)が放った金の矢はアポロの胸に、
鉛の矢はニンフのダフネの胸に。
金の矢は恋慕、鉛の矢は嫌悪。
以来アポロンはダフネを恋い慕うようになり、
ダフネは……アポロから逃げ回るようになります。
Apollo and Daphne(1908)
John William Waterhouse
こちらはジョン・ウィリアム・ウォーターハウス「アポロとダフネ」。
ぼくが敬愛する、英国ビクトリア朝の画家の作品です。
愛するダフネの肩に手をかけ、アポロンが思いを遂げようとしたそのとき。
「父よ、わたしの姿を変えてください」
ダフネの祈りは父親の川の神に届き(背景に川が流れています)、
彼女は月桂樹へと姿を変えていくのです。
今夜の「美の巨人たち」で
ベルニーニの「アポロとダフネ」を取り上げていたんですが、
徹夜続きで寝不足だったせいか途中で寝落ちしてしまいまして。。
あとであれこれ調べていたら、この作品にたどり着いた次第です。
ウォーターハウスはベルニーニの彫刻を参考にこの絵を描いたそうですが
こういった動的な構図は彼の得意とするところではなく、
アポロもどちらかというと柔弱な優男に描かれてしまっており
いまいち評判がよくなかったそうです。
ベルニーニ「アポロとダフネ」。いつか実物を見てみたい。
どちらかというと、注目すべきはダフネの表情やポーズでしょうか。
彼女の表情は恐怖にとらわれたそれではなく、
やさしさと悲しさをたたえているように感じられます。
右手はアポロの手を受止めようとしているようにも見えますし、
左手は頬へと伸び、憂鬱質のポーズを思わせます。
そして彼女を覆う月桂樹の枝は
アポロの竪琴にも絡み付いているんですよね。
ダフネの嫌悪は鉛の矢による強制的なものでした。
月桂樹に姿を変えたそのとき、彼女は呪いから解き放たれたのでしょうか。
そしてその瞬間、はじめてアポロの思いに気付いたのでしょうか。
そうであったらいいなぁと、勝手に思っています。
ちなみにアポロは失われたダフネを思い
月桂樹の葉でつくった冠を生涯かぶり続けたそうです。
Birdy「Skinny Love」。Bon Iverのカバー曲。これもまた、悲しい歌詞。
ぼくの胸にも、去年の夏から金の矢が刺さったままだ。
今日、もしかしたら、と思えることがあって
またどうしようもない勘違いなんだろうけど。。
ところで、植物への変身譚というと
アドニス、ナルキッソス、ヒュアキントスなど
悲劇的なものばかりが思い浮かびます。
ウォーターハウスが描いたのも「アポロとダフネ」のほか
「イザベラとバジルの壷」「フィリスとデモフォン」など悲しいお話ばかり。
白居易の「長恨歌」にでてくる「連理の枝」なんかは
現代では異なる根をもつ2本の木が途中から幹を絡ませひとつになるということで
結婚式のスピーチで使われるような言葉だったりしますし
京都の下鴨神社などこの名前を持つ木が実際にあったりしますが、
もともとは悲しいお話だったりするわけでして。
幸せな結末はヘッセの「ピクトルの変身」くらいでしょうか。
木に生まれ変わり永遠を手にしたピクトルは、
やがて自分の幸福が完全でないことを知り、
悲しみのとりこになり、美しさを失っていきます。
ある日、青い服を着た金髪の乙女が森に迷い込んできて……といったお話。
新潮文庫の「メルヒェン」収録、珠玉の短編ですよ。
今日も明日もがんばろう。
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