ウォーターハウス「ティスベ(リスナー)」
前回に引き続き、
ウォーターハウスによる植物と恋の物語を。
タイトルは「ティスベ」。
「リスナー」とも呼ばれる作品で、
画中では壁に耳を当てる女性が描かれています。
彼女(ティスベ)が耳傾けるのは、恋人の愛のささやき。
許されぬ恋ゆえに、こうして壁の割れ目を通してしか
愛を語り合うことができないのです。
Thisbe(1909)
John William Waterhouse
ウォーターハウスの「ティスベ」は、
「ピューラモスとティスベ」というギリシャ神話をもとに描かれた作品です。
舞台は古代バビロン。
ティスベは隣家のピューラモスと恋に落ちるものの、
両家は敵対する関係だったため2人の恋は許されるものではありませんでした。
近くに住んでいながら会うことさえままならぬ2人。
画中のティスベは椅子に腰かけて織物をしていたのでしょう。
壁の割れ目から聞こえてきたピューラモスの声に夢中で立ち上がり、
一言も聞きもらすまいと亀裂に耳をあて、
その存在を確かめるように右手を壁に当てています。
ふと周囲が気になったのか、視線をこちらに向けるティスベ——。
やがて2人は運命を変えようと、駆け落ちを決意します。
バビロンの街のはずれ、泉のそばにある桑の木の下で落ち合おう。
約束の晩、ティスベは家から抜け出し待ち合わせ場所に向かいますが、
待てど探せどピューラモスの姿はありませんでした。
そして……闇のなかから重々しいうなり声が聞こえてきます。
姿をあらわしたのは、恋人ではなく獰猛なライオンでした。
彼女はあわてて岩陰に隠れますが、ヴェールを落してしまいます。
ライオンはヴェールにじゃれつき、引き裂いてその場を去っていきます。
獲物を食べたあとだったのか、残されたヴェールは血まみれになっていました。
その後、ようやく待ち合わせ場所にやってきたピューラモスですが
血まみれのヴェールと地面の足跡を見て、
恋人がライオンに襲われたのだと勘違いし、
絶望のあまり短剣でみずからの喉を貫いてしまいます。
バーン=ジョーンズ「ティスベ」。彼女が手にしているのは……。
昨年の展覧会「ラファエル前派からウィリアム・モリスへ」に出てましたね。
ここから先は……もうお分かりでしょう。
岩陰から戻り、最愛の人の亡骸を見たティスベは
自らの胸を短剣で突いて後を追うのです。
そしてそれまで白い実をつけていた桑の木は、
2人が流した血によって、赤黒く染まった実をつけるようになったそうです。
ところでこれ、どこかで聞いたことのあるお話だと思いませんか?
許されぬ恋、両家の諍い、悲劇的な死をもって終わるストーリー。
そう、シェイクスピアのあの作品です。
偉大なるイングランドの劇作家は
この「ピューラモスとティスベ」を元に、
「ロミオとジュリエット」を書き上げたのでした。
今日も明日もがんばろう。
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