鏑木清方「妖魚」
伊東深水、山川秀峰と続いたので
今回は2人の師である鏑木清方を。
といっても、美人画は過去に何度も紹介しているので
清方作品のなかでも異色といわれる一点を。
1920年に発表した「妖魚」です。
A Bewitching Mermaid(1920)
Kaburaki Kiyokata
海上の岩場に身を横たえる女性。
濡れてみだれた黒髪を這わせ、
あやしい微笑みを正面に投げかけています。
下半身は金の鱗に覆われ、長く伸びたその先は2つに割れて……
妖魚、つまり彼女は人魚なのですね。
両手で小魚をもてあそぶ様はどこか挑発的で、
見るものを屏風の内側へ誘おうとするかのよう。
ベックリンなど世紀末絵画を思わせる作品です。
横浜美術館の「はじまりは国芳」にて
この作品と対面したんですが、
いやはや何とも……釘付けになってしまいました。
蛇ににらまれた蛙のように。
美人画の巨匠にもかかわらず
妖魚の上半身のプロポーションは崩れていて、
妙に腕が太かったり乳房の形がおかしかったり……。
そこに女性の繊細さなど微塵も感じられず、
隙あらば男性を引きずり込もうとする魔性の力を感じます。
清方流ファム・ファタールか?
さて、美人画といえば西の松園、東の清方といわれますが
清方の「妖魚」より2年ほど先に
上村松園もまた、従来の作風を覆すような作品を発表しています。
嫉妬に狂い、生き霊となった女性を描いた「焰」という一枚。
清方は松園のことを尊敬していたといいますから、
もしかしたら松園の「焰」に触発されたのかもしれないですね。
上村松園「焰」。こちらは幽霊。
今日も明日もがんばろう。
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