フランツ・マルク「戦うフォルム」
動物を描き続けたフランツ・マルクでしたが、
最初は丸みを帯びた柔らかい輪郭だったものが
やがて鋭角的に幾何学的に、抽象を強めていきます。
そして目にうつる動物の姿を、自然の本質を描くだけでは満足できず
その背後に広がる隠された世界を描きたいと望むようになります。
晩年に描かれたのは、「戯れるフォルム」「陽気なフォルム」
「戦うフォルム」「壊れたフォルム」と題された4点の連作。
今回はそのうちの一点、「戦うフォルム」を。
Fighting Forms(1914)
Franz Marc
左の赤い物体は、もともとは鷲であったといわれています。
右の青黒い物体は、物質ではなく精神的な何か。
双方が対峙し、ぶつかり合う姿が描かれており
とてもここから命の尊さやぬくもりなど感じられません。
1914年、時あたかも第一次世界大戦勃発の年でした。
マルクはみずから志願し、戦場に身を投じます。
戦争は国に救いをもたらすものであり、
ヨーロッパを新しく生まれ変わらせる——。
当時の若者たちと同じように、
彼もまたナショナリズムの呪縛と時代の狂熱にとらわれていたのでしょう。
そして1916年、36歳の若さで命を落とします。
「戦うフォルム」が芸術として優れたものであったとしても、
ぼくはこの時期の作品を好きになれないのです。
動物の純粋さを愛したマルクが、どうしてこんな絵を描くようになったのか。
それがもしも戦争のせいなのだとしたら、
こんなにやりきれないことはありません。
悲しみのフィルターを通してしか、この作品を見ることはできません。
争いのない世の中だったら、どんなにすばらしいだろう。
今日はずっとそんなことを考えていました。
亡くなられた方々のご冥福をお祈りします。
今日も明日もがんばろう。
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