鏑木清方「一葉女史の墓」
糸のような月がかかる夕暮れ時、
うら若き乙女が墓にもたれてこちらに視線を投げ掛けています。
彼女の名前は美登利といい、
遊女になるべく育てられた14歳の少女。
鏑木清方の初期の傑作、「一葉女史の墓」。
一葉と美登利といえば……「たけくらべ」ですね。
A Tomb of Lady Writer Ichiyo(1902)
Kaburaki Kiyokata
清方は樋口一葉の作品を愛読しており、
「たけくらべ」や「にごりえ」に材をとった作品を多く残しています。
この「一葉女史の墓」もそのひとつで、
「たけくらべ」の主人公・美登利が一葉の墓を詣でるというもの。
美登利が手にしている水仙は、作中の別れのシーンを想起させます。
どこか寂しげな表情は、終わってしまった幼い恋によるものでしょうか。
それとも、才女としてもてはやされながらも生活苦にあえぎ、
恋が報われることもなく24歳の若さで亡くなった一葉に
おのれの運命を重ね合わせているのでしょうか。
「一葉女史の墓」は、鎌倉の鏑木清方記念美術館で展示されていました。
ちょうど「たけくらべ」を先日読み終えたばかりでして、
恋の芽生えと別れを描いた名作を思いながら鑑賞した次第です。
小説ではもっと幼いイメージだったんだけど、
最後は「彼日(かのひ)を始めにして生れかはりしやうの身の振舞」ですもんね。
「たけくらべ」のあらすじを知っている人は、
なおさらこの作品を寂しく感じるかもしれません。
ただの美人画にあらず、深い文学性と情緒を宿した傑作で、
清方は後年、「現在の自分にあるほとんどすべてが、
この一枚の絵にあるように思う」と語ったそうです。
鏑木清方記念美術館。門構えがすてき。
鏑木清方記念美術館は今回はじめて行ったのですが、
観光客でにぎわう鎌倉の小町通りから横道にはいってすぐ、
静かなたたずまいの和風建築が印象的でした。
清方が晩年を過ごした旧居を美術館として改装したもので
展示の規模は小さいながらも名品ぞろい。
画集やよその展覧会で見たことのある作品が並んでいて
しばし喧噪を忘れて作品世界に浸るひとときでした。
次回の招待券をいただいたので、桜の頃にまた行ってみようかな。
2枚もらったから……泊まりで2回行くかな(笑)
美術鑑賞後は、あんみつで一息。甘いもの好きなので。。
今日も明日もがんばろう。
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