静嘉堂文庫美術館の「曜変天目」
昨年あたりから茶道具にも少しずつ興味を持つようになり、
となると一度は見ておかなければ……と思っていた碗があります。
至高の名碗、「曜変天目」。
世界に4点しかなく(3点ともいわれている)、
そのすべてが日本に伝わっています。
静嘉堂文庫、藤田美術館、大徳寺龍光院の所蔵がそれぞれ国宝で、
加えてMIHO MUSEUMの所蔵品が重要文化財(こちらは油滴天目との意見も)。
今回は東京世田谷区にある静嘉堂文庫美術館で見てまいりました。
口径12.0cm、高さ6.8cmの端正な碗をのぞくと、
漆黒の釉に大小の斑文が浮かび上がります。
見る角度によって班文は青や藍、瑠璃色の光を帯び、
まるで碗のなかに星々を閉じ込めたかのようでした。
かと思えば、鉱物の結晶体のようにも
原生生物のようにも見えてきて……。
宇宙という大なる世界と
無機・有機を形作る小世界とが併存しているんですね。
星霜を重ねてなお、輝きつづける奇跡。
見にいってよかったと心から思いました。
「曜変天目」のなかでも、静嘉堂文庫の所蔵品は最上級とされており
別名を「稲葉天目」というそうです。
徳川将軍家の所蔵だったものを淀藩主稲葉家が拝領したことに由来し、
大元をたどれば南宋時代、中国福建省で焼かれたものなんだとか。
海を越え、時代を越え、命あるもののごとく耀く小さな碗は
やはり奇跡と呼ぶほかないと思うのです。
館内には人もまばらで、心ゆくまで堪能できました。
展覧会は「茶道具の美 — 岩崎家父子二代のコレクション—」と題し、
岩崎彌之助・小彌太が収集した茶道具がずらっと並びます。
「曜変天目」と並ぶ至宝、「油滴天目」もすばらしい造型美でした。
曜変にくらべて班文が細かく、
外側にも滴が散りばめられているのが特徴。
色合いも穏やかで、朝顔型の口ぶりもあって
「曜変天目」が浮かび上がる光なら、
「油滴天目」は吸い込まれていく光といった印象でした。
会期は3月24日(日)まで、
2月20日〜27日にかけて牧谿の「羅漢図」が登場します。
ちょうどこのころには梅がきれいに咲いているだろうから、
できればもう一回行きたいと思っております。
「油滴天目」。実際に使うならこっちの方がいいかな(笑)
ちなみに静嘉堂文庫美術館は今回がはじめて。
普通は駅からバスかタクシーで行くものらしいんですが
立春の前にして気温20度の晴天ということで、
これは多少時間がかかってでもお散歩だろう、と。
徒歩20分の道のりをテクテクと……のはずだったんですが
見事に道を間違えて、閉館ギリギリで駆け込んだのでした。
まぁ、おかげで川沿いの緑を堪能できたからよしとしましょう。
美術館周辺の緑地では梅の花がほころびはじめていて、
満開になったらさぞかしきれいなんでしょうね。
二子玉川の川沿いの歩道。これもすてきなお散歩体験。
さて、今回のお題の天目茶碗ですが、
曜変・油滴ともに多くの陶芸家が再現を試みているようです。
昨年末、友人の結婚祝いでプレゼントしたのも
佐渡の作家さんがつくった油滴天目のぐい呑みでした。
静嘉堂文庫美術館のものとはとてもとても比べ物にならないけど
自分の分も買っておけばよかったなーと今頃後悔。
またどこかで売ってたらいいな。
今日も明日もがんばろう。
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