ヴァン・ダイク「悔悛のマグダラのマリア」
Bunkamuraの「ルーベンス展」では、
ルーベンスの工房で腕を振るった画家たちの作品も展示されています。
その筆頭は、やはりヴァン・ダイクでしょう。
工房のもっとも有能な助手として活躍し、
その後イギリスにわたって宮廷画家となった肖像画の巨匠。
彼の作品こそ「ルーベンス展」後半のハイライトであると思います。
St. Mary Magdalene Repentant(c.1618-20)
Anthony Van Dyck
ヴァン・ダイク「悔悛のマグダラのマリア」。
復活後のキリストに最初に出会ったのが彼女です。
悔悛、つまり悔い改めた女性。
娼婦だった彼女は聖母の対極ともいえる存在で、
聖書では罪ある女として登場します。
なかでも有名なのは、キリストの足に涙をこぼし
長い髪でそれをぬぐい、持参した香油を塗り付けたというエピソード。
ゆえに絵画においてマグダラのマリアは
長い髪の毛と香油壷とともに描かれ、
さらに「財を捨てた」ということで半裸であらわされます。
巨匠ティツィアーノはこの場面を官能的に描きましたが、
ヴァン・ダイクは乳房を露出させることなく
官能をこえた聖性とともに描ききっています。
真っ赤に腫れ上がった瞳からは大粒の涙がこぼれ落ちており、
実物を見るとこの涙が立体的で
宝石のような輝きをまとっているのに気付きます。
罪から清められ、生まれ変わる歓びを知ったマリア。
その敬虔さに見る者は心を打たれます。
参考、ティツィアーノ「悔悛のマグダラのマリア」。髪の毛がすんごい。
さて、マグダラのマリアといえば、
イエスの最期を看取った人物でもあります。
すなわち「キリスト降架」。
ルーベンスが描いた壮大な傑作は
「フランダースの犬」の主人公ネロが
見ることを望んだ作品としても知られています。
この「キリスト降架」の版画が、
「ルーベンス展」に出品されているのですよ。
高さ4m超の原作絵画に比べて版画は59cmと小ぶりながら、
圧倒的な筆力で描かれた迫真の構図が再現されています。
「キリスト降架」。ルーベンス作品をもとに、リュカス・フォルステルマンが版画化。
話は変わって……。
あの未曾有の大災害から、2年がたちました。
自分にとってはあっというまの2年でしたが、
被災地の方々にとってはつらく険しい、忍耐の2年であったと思います。
縁あって、某新聞にて復興支援に関する広告原稿を書かせていただきました。
被災地に足を運んだこともなく、安穏と時を送ってきた自分の言葉は
ひどく薄っぺらかったかもしれないけれど、
それでも何かを、少しでも動かせたらと思います。
亡くなられた方々にご冥福をお祈り申し上げるとともに、
被災地で強く生きる皆様に心よりエールをお送りします。
今日も明日もがんばろう。
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