ミュシャ「四芸術」(ミュシャ展より)
野に咲く花がもっとも美しいとするならば
そも芸術とは何であるかと。
その起こりは自然への感謝を表さんとするものであったなら——。
風と踊り、花を見つめ、星を歌い、夜に耳を傾ける。
ミュシャの「四芸術」という作品には、
こんな形で芸術というものの有り様が提示されています。
筆をとることも楽器を奏でることもなく
自然と相対したときに心の奥から湧き出ずるものこそ芸術の本質であると
勝手にそんなことを考えている次第です。
ダンス、絵画、詩、音楽。
これら4つの芸術をアレゴリー(寓意画)としてあらわしたのが
アルフォンス・ミュシャの「四芸術」。
前に「音楽」だけ紹介したことがありますが、今回は4つまとめて。
これらは芸術分野を擬人化しただけでなく、
それぞれ異なる時間帯とともに描かれています。
まずは「ダンス」。
時は朝、さわやかな風に髪をなびかせながら踊る女性が描かれています。
彼女の衣装も風をはらみ、道をなすように画面の外側へ。
散る花びらが、軽やかに伸び上がった女性の姿態と呼応しています。
The Arts: Dance(1899)
Alphonse Mucha
続いて「絵画」。
陽光きらめく午後に、雫を宿したあかい花から放射状に虹が広がります。
じっと花を見つめているように見えますが、
腕をぴんと伸ばして花を遠ざけていることからすると
遠くの景色と花とを重ね合わせて構図を考えているのかもしれません。
The Arts: Painting(1899)
Alphonse Mucha
次は「詩」。
樹々の向こうに陽が沈み、一番星が輝く黄昏時。
頬杖をついて物思いにふける女性が描かれており、
彼女の背後からは月桂樹の葉が伸びています。
桂冠詩人という言葉もあるように、月桂樹の枝で編まれた冠は
大詩人の頭にかぶせられました。
The Arts: Poetry(1899)
Alphonse Mucha
最後に「音楽」。
耳を澄ませる女性の後ろには、
夜に鳴くナイチンゲールの群れがいます。
また円環のなかには中指を伸ばした手先が描かれており、
これは楽器を奏でる手の動きを意味しているのでしょうか。
The Arts: Music(1899)
Alphonse Mucha
これら「四芸術」は、森アーツセンターギャラリーで開催中の
「ミュシャ展」で展示されていました。
初期の油絵からアール・ヌーヴォーの時代、
そして祖国に捧げたスラヴ叙事詩の時代まで、
ミュシャの画業の全体像を紹介する回顧展。
名声を確たるものとした演劇のポスターや、
舞台衣装、アクセサリー、パッケージデザインなど
ミュシャの多才ぶりに気付かされます。
「四芸術」に関してはそれぞれの習作も展示されており、
粗いぶんだけ妙に艶かしく、完成品とはまた違った魅力を発散していました。
会期は5月19日まで、その後新潟、松山、仙台、札幌を巡回。
森アーツは場所が場所なので混雑が予想されますが、
ぼくが行ったときは夜だったせいか鑑賞者はまばらで
思う存分楽しめました(そのかわり時間がなかったけど)。
ということで、次回以降もミュシャの作品を紹介したいと思います。
今日も明日もがんばろう。
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