ゴヤ「我が子を喰らうサトゥルヌス」
深淵を覗きこむとき、
深淵もまたこちらを覗いているのだ。
(ニーチェ)
Saturn Devouring His Son(1820-23)
Francisco de Goya
フランシス・ベーコンの作品を見たとき、
反射的に思い浮かんだのはゴヤの作品でした。
「我が子を喰らうサトゥルヌス」。
ゴヤが晩年を過ごした「聾者の家」に描かれた
14枚の壁画、通称「黒い絵」の一枚です。
軋みを上げそうなほどに歪んだ肉体、
画面におさまりきらぬ手足、
そして「我が子を喰らう」というおぞましい行為。
自分の子に殺されるという予言を信じ、
殺される前に……と5人の子を次々に飲み込んでいった
時の翁サトゥルヌスの凄惨な物語を、
ゴヤは食堂の壁に描いたといいます。
生きながらえるための「食事」という儀式を、
ゴヤはこの作品を見ながら行っていたということです。
ゴヤ「食事をする二老人」。これも黒い絵の一枚。
グロテスクな黒い絵のなかでも、
「我が子を喰らうサトゥルヌス」は凄惨さにおいて群を抜いています。
ゴヤはどうしてこんな作品を描いたのか。
聴力を失い、視力さえも弱っていくなかで
ゴヤは闇というものを強く意識していたのかもしれません。
戦争の惨禍を目の当たりにし、人間の醜さを描き続けたゴヤの心は
既に闇に覆われていたのでしょうか。
しかしゴヤは、闇に飲み込まれることはありませんでした。
黒い絵の時代を経て、奇跡のような光あふれる作品を残すのです。
作品名は「ボルドーのミルク売りの少女」。
これについては前にも書きましたが、
壮絶な「我が子を喰らうサトゥルヌス」とは似ても似つかぬ
心洗われる美しい一枚です。
いつか実物を見たいと、そう願ってやみません。
ゴヤの絶筆とされる「ボルドーのミルク売りの少女」
さて、前回に続いて怖い絵を紹介してしまったので、
次回からはとっておきの可愛い絵をご紹介したいと思います。
最近また慌ただしくなってきたので(実は大阪におります)
次の更新まで間があくかもしれませんが……。
今日も明日もがんばろう。
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