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足立区綾瀬美術館 annex

東京近郊の美術館・展覧会を紹介してます。 絵画作品にときどき文学や音楽、映画などもからめて。

円山応挙「松に孔雀図襖」(応挙展より)

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先週末、異常に早く目が覚めてしまい
これはもう行くしかない! とばかりに
勢いで朝7時の新幹線に乗って、名古屋まで。
愛知県美術館の「円山応挙展」に行ってきました。
応挙を名乗る以前の作品も含め幅広く網羅的な展示でしたが、
白眉はやっぱり……この作品でしょう。


円山応挙「松に孔雀図襖」
 Peacocks and Pines(1795)
 Maruyama Okyo




円山応挙「松に孔雀図」(部分)。
孔雀を多く描いた応挙ですが、墨一色で描いた作例は珍しいそうです。
金地を背に、飾り羽を反らせた雄々しい姿。
数年前に三井記念美術館で開かれた応挙展でもこの作品を見てますが
インパクトでは圧倒的に今回のほうが上でした。


その理由は展示方法にあります。
本作は兵庫県・大乗寺の障壁画として描かれた作品なんですが
今回の展覧会では客殿二間の空間を再現し、
襖24面分をガラスケースなしで展示しているのです。
中央にはコの字型の「松に孔雀図襖」が設置され、
左手には「郭子儀図襖」、右手には呉春の「四季耕作図」が。
鴨居・敷居にはめこまれ、
青畳が照明を跳ね返して孔雀の姿を浮かび上がらせます。


円山応挙展_展示イメージ
 大乗寺の障壁画を再現(チラシより)



さすがにお寺の雰囲気を完全再現というわけにはいかないんですが、
この展示空間ではもうひとつ心憎い演出が。
同じ場所に立ってじっと見ていると分かるのですが、
照明の光度が少しずつ変化していくんですね。
薄暗い状態から徐々に強く明るくなり、また弱く暗くなっていく。
一日の自然光の変化を再現することで、
そのときどきで表情を変える襖絵を楽しむという趣向なのです。
明るいところで作品を見るのには慣れているけど、
これが夕方の暗い光になるとがらりと雰囲気が変わります。
金地の反射光が弱まるせいか、墨一色の松や孔雀が
量感をもってせり出してくるんです。
黒一色で描かれているはずなのに、緑や青といった色彩を伴って。
時間を忘れて襖絵の変化に没入する、贅沢なひとときでした。
もし許されるなら……畳に寝転がって鑑賞したかった(笑)
仕方ないからしゃがんで下から覗き込んだりしましたけど。


円山応挙は江戸時代中期、伊藤若冲や曾我蕭白と同時期に
京都画壇で活躍した絵師です。
若年期には「眼鏡絵」という、西洋の遠近法で描かれ
レンズをはめた箱を使って覗き見ると立体的にうつるという作品を制作。
これが従来の画家にはなかった新たな“視覚”となり、
「写生」を基本とした作風につながっていきます。
さらに応挙は狩野派や土佐派の画風を取り込み、
これら日本画の土壌に西洋・中国絵画の要素をも融合させていきます。
古来脈々と受け継がれてきた日本画は応挙に集約され、
そこから一気に花開いたといっても過言ではないでしょう。
出品作品のなかには上村松園ばりの美人画や
酒井抱一ら江戸琳派を先取りしたような意匠の作品もあり
その先進性に舌を巻くばかりでした。

円山応挙「眼鏡絵 三十三間堂」
 初期の眼鏡絵より、「日本名所のうち 三十三間堂 通し矢」。いわゆる線遠近法ですね。



ただし、一世を風靡した応挙ですが
当時は彼の画風を批判する声も多かったのだとか。
写生を重んじた応挙の作品は知識がなくても楽しめるため、
当時の知識人には物足りなく感じられるところもあったようです。
展覧会場では、これを文学にたとえて
「応挙の革新性は、文学における文語から口語への転換のようなもの」
といったことが書かれていました。なるほど納得です。


とはいっても先日ご紹介したような
モフモフのワンコをたくさん描いていたりもするんで、
あまり難しく考えず直感にしたがって鑑賞するのがいいと思います。
気がつけば感嘆のため息ばかりですよ、きっと。


会期は14日まで、残り1週間。
ぼくは開館前に並んで朝イチで鑑賞して、
その後夕方にもう1回鑑賞しました。
そのくらい見応えのある展覧会ということです。
新幹線代は高くつきましたが、十分もとは取れたんじゃないかと。
残念ながら見に行けない……という人には、こちら
大乗寺のデジタルミュージアムで、
今回ご紹介した「松に孔雀図襖」などの障壁がを見ることができます。
ぜひお試しあれ。

「大乗寺 円山派デジタルミュージアム」はこちら>>




今日も明日もがんばろう。
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(2003/11)
佐々木 丞平、佐々木 正子 他

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