マティス「マグノリアのある静物」
マグノリアが活けられた翡翠色の花瓶の後ろに、
オレンジ色の鍋がおいてあるでしょう?
大きな丸い口をこっち向きにしてね。
まったく、芸術家の感性っていうのはどういうものなんでしょうね。
マグノリアと、鍋。そんな取り合わせすら、
うつくしい、と思わせてしまう巧妙さ。
どんなに陰鬱な時代でも、ひととき、
せめて絵を眺めているあいだくらいは、
何もかも忘れて、夢を見ることができるように。
痛みをなくす麻酔のような力が、先生の絵にはある。
(原田マハ「ジヴェルニーの食卓」より)
Still Life with a Magnolia(1941)
Henri Matisse
アンリ・マティス「マグノリアのある静物」。
鮮烈な赤のまんなかに置かれた緑色の花瓶、
そこに真っ白な一輪のマグノリアが咲いています。
赤と緑は互いを引き立てる補色の関係。
そしてその中央に咲き誇るマグノリアは
時に白よりももっと白く、
時に微かに色づいて見えてきます。
これら色彩の出会いを寿ぐように
四隅に置かれた色とりどりの静物も楽しげですね。
この作品は、原田マハの小説「ジヴェルニーの食卓」に出てきました。
4人の有名画家を巡る短編集で、
ひとつめの物語はマティスにちなんだお話。
絵筆をはさみに、絵具を色紙に変えた
老齢のマティスのもとで働くことになった
「マグノリアのマリア」と呼ばれる家政婦が主人公です。
ロックフェラー礼拝堂の薔薇窓のための作品に取り組むマティス、
彼のもとを訪れた盟友パブロ・ピカソ……。
おっと、短編なのでネタバレにならないようにここで止めておきましょう。
「ジヴェルニーの食卓」は、
アートが好きな方ならきっと夢中になれる小説です。
マティス以外の登場画家はドガ、セザンヌ、モネ。
光と色彩が踊るような美しい描写で、
あたかも絵画を眼前にしているような気分になります。
序盤の特に感動的でもないシーンで
なぜだか目頭が熱くなってしまったのは、
ひさびさに良質な物語に触れたせいでしょうか。
それとも年々涙腺が弱くなってるだけかな?
「楽園のカンヴァス」の著者が贈る、色鮮やかな物語。
おすすめです。
今日も明日もがんばろう。
![]() | ジヴェルニーの食卓 (2013/03/26) 原田 マハ 商品詳細を見る |
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