長澤蘆雪「狗児扇面」
あーこらこらじっとしてなさい
こらこらこら動くんじゃないよ
動いたら描けないだろうに……
あーしかし何と愛らしい仔犬であろう
人懐こいし毛並みもいい
さてはどこかから逃げてきおったな?
なんという悪い子じゃ!
いたずらそうな顔をしよってからに……
「蘆雪ー蘆雪ーどこじゃー」
いかんお師匠様じゃ
こらお前吠えるでないぞじっとしとるんじゃぞ
見つかったら横取りされるでな
あの人はわし以上の犬好き
いやむしろ犬狂いじゃでな
鶏狂いの伊藤若冲に犬狂いの円山応挙に
ただの狂いの曾我蕭白と言うてな
いやそんなこと言うやつはおらんぞ
わしが思ってるだけだが怖くて言えるかそんなもん
あーこらそっちに行ったらいかんと言うておろう
「蘆雪ー蘆雪ー」
いかん近づいてきた
しかしなんでさぼってるのがばれたんじゃろう
源琦のやつが告げ口でもしたのかな
いやきっと呉春だな
どうもあいつとはそりが合わなくてな
仕方あるまい手荒なことはしたくないが
口をふさがせてもらうぞ
しばしの辛抱じゃ……
……
どうやら気付かれずにすんだようじゃの
お師匠様はあっちに行ったようじゃの
ふう一安心一安心
窮屈な思いをさせてしまったな
侘びのしるしになでなでしてやろう
ほれなでなでなでなで
なんじゃお前気持ち良さそうな顔をしおって
べろ出しておなかも丸出しじゃないか
お行儀の悪いやつじゃのう……
そうじゃこのままなでなでしながら描いてやろう
あーこれ暴れるんじゃない
おとなしくしとれと何度も言うておろうに
見なさいこんな不細工な絵になってしまったぞ
「蘆雪ー蘆雪ーどこじゃー」
いかんまた来た
こんなもんお師匠様には見せられんぞ
念仏のように写生写生と唱える御仁じゃからな
馬鹿の一つ覚えじゃあるまいし
そのくせ仔犬を描くときは……
「蘆雪ーお前またわしの悪口言っとるなー」
Puppy(after 18 Century)
Nagasawa Rosetsu
はい、妄想劇場でございました。
特にオチもなくお目汚し失礼いたしました。
こちら、長澤蘆雪「狗児扇面」でございます。
府中市美術館の「かわいい江戸絵画」後期展示より。
当時の仔犬はおなか丸出しのポーズなんてしないだろうということで
なでなでしながら描いたんじゃないかなー
だからゆるゆるの作品なんじゃないかなーなんて思いまして(笑)
ちなみに「お師匠様」は円山応挙です。
応挙は謹厳実直生真面目な性格で、
弟子の蘆雪は奔放でちょっと傲慢なところもあったそうで。
そもそも2人とも関西の人なんでこんな喋り方しないだろうけど。
今日も明日もがんばろう。
![]() | 長沢芦雪 (別冊太陽 日本のこころ) (2011/03/28) 狩野博幸 商品詳細を見る |
- 関連記事