アレクサンダー・ハリソン「海景」
Seascape(1892-93)
Alexander Harrison
仄白い海の汀(なぎさ)に
独り、憂いの思いにふけり、私は坐っていた。
日は益々低く傾き、
燃えるくれないの縞を水に投げた。
そして白い広い波頭は
潮に押されて
次第に近づき、泡立ち、どよめいた。
ふしぎな響き、囁きと笛のおと、
笑いとつぶやき、ためいきとざわめき。
それに交って、子守唄のように懐かしい歌声。
その往時(かみ)、まだ少年の頃
隣の児らが話してくれた
古い古い可愛い物がたり、
行く方も知れぬ語りぐさを
再び聴くかと思われた。——
あれは夏の夕べのことで
子供の私らは戸口のきざはしの上にしゃがんで
小さな心臓をどきどきさせ
面白さに眼を光らせて、
ひっそりと、話に心を奪われていた。——
そしてあのとき大きい少女らは
馨(かぐわ)しい花鉢の脇に、
窓のそばにすわっていた。
並んだ顔は薔薇の花に似て、
微笑みながら、月の光に照らされていた。
(ハインリヒ・ハイネ「黄昏の薄明かり」)
今日も明日もがんばろう。
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