速水御舟「名樹散椿」
東京にはいろんな通りがありますが、
昨年3月、新たに「美術館通り」と呼ばれるルートが
開通したのをご存知でしょうか。
山種美術館、根津美術館、国立新美術館などのアートスポットをつなぐ道で、
これら3館では今、花にまつわる展覧会が開かれています。
ということで、まずは山種美術館の「百花繚乱 -花言葉・花図鑑-」から
同館が誇る重要文化財、速水御舟の「名樹散椿」を。
Camellia Petals Scattering(1929)
Hayami Gyoshu
椿は普通、「散る」ではなく「落ちる」と表現します。
花びらが一枚一枚散るのではなく、首から丸ごと落ちるためで、
「ぱっと咲き、ぽたりと落ち、ぽたりと落ち、ぱっと咲いて…」と
かの文豪・夏目漱石は「草枕」で表現しています。
しかしなかには「散る」椿もあるそうで、それが本作に描かれた散椿。
御舟が描いたのは京都・地蔵院の「五色八重散椿」で、
この花の存在によって地蔵院は椿寺とも呼ばれているのだとか。
作品を見ると、たしかに花びらがひとひらずつ散り落ちています。
簡略化された深緑の土坡や幹に比べて、
花々は写実的に美しく描かれています。
紅、桃、白、桃に白絞り、白に紅絞りなど表情豊かに咲き分ける名椿が、
金地を背に浮かび上がってくるかのよう。
そして葉先は屏風の枠外へと沈んでいき、
いやがおうにも下への力を意識させられます。
永遠に輝き続ける金に対して、花は散ることを運命づけられており
西洋の寓意画ヴァニタスにおいては美の儚さをあらわすわけで……。
散りゆくさだめだからこそ、その美しさが際立つのでしょうけれど。
この「名樹散椿」ですが、
ちょっと前に「美の巨人たち」でも取り上げられていましたね。
そこでは金地の謎が解き明かされていました。
金なのに絢爛豪華とは違った、落ち着きのある静かな輝き。
それは金箔でも金泥でもなく、
金砂子を用いた「蒔きつぶし」という技法によるものなのだそうです。
金箔をふるいにかけて細かくした金砂子で、丹念に背景を埋めていく。
これによって、箔足(金箔の継ぎ目)も残らず
フラットな背景ができあがるわけです。
このすごさは、ぜひ実物で感じ取ってみてください。
照度をおさえた第2展示室に作品が置かれていますので、
静かに光を吸い込むような金地の妙を堪能できると思います。
山種美術館の「百花繚乱」は6月2日まで。
土佐派や琳派から存命の画家まで幅広く、
「人と花」「花のユートピア」「四季折々の花」という
3つの切り口で花にまつわる作品が展示されています。
個人的には菱田春草の「桜下美人図」、伊東深水の「吉野太夫」、
荒木十畝の「四季花鳥」あたりがお気に入り。
川端龍子の弟子・牧進の作品もよかったです。
まさに百花繚乱、華やかな展覧会でしたよ。
荒木十畝「四季花鳥」。今回はじめて知った日本画家です。
今日も明日もがんばろう。
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