マリオ・ジャコメッリ「私にはこの顔を撫でてくれる手がない」
白が損なわれないように、黒が閉ざされないように、
黒の内と同じように白の内が読めるように。
白、それは虚無。
黒、それは傷跡だ。
(マリオ・ジャコメッリ)
Io non ho mani che mi accarezzino il volto(1961-63)
Mario Giacomelli
イタリアの写真家、マリオ・ジャコメッリ。
幼いころに父親を亡くし、
町のホスピスで洗濯婦として働く母について
ホスピスに出入りしていた彼は
そこに立ちこめる死や老い、苦悩、孤独に触れながら
多感な少年時代を過ごします。
やがてカメラを手にしたジャコメッリがフィルムにおさめたのは
白と黒の痛々しいまでのコントラスト
絶望と苦悩をしのばせた詩情
一縷の希望にすがりつく弱き人々など……。
東京都写真美術館の「マリオ・ジャコメッリ写真展」では
こうしたモノクロームの世界が広がり
胸をえぐられるような作品がいくつもいくつも展示されていました。
たとえば冒頭にあげた一枚「私にはこの顔を撫でてくれる手がない」は
雪のなか、黒衣の神学生たちが陽気におどり戯れている写真ですが
その実、連作にはどこか寒々しい空虚なものが満ちており
タイトルの「手」とは誰の手なのか、
彼らが神学生なら、「顔を撫でてくれない」のは……など
さまざまな思いにとらわれました。
とはいえ、なかには下のような写真もあったりで。
「男、女、愛」と題されたシリーズで、強烈な逆光を背に
樹木をはさんで語り合う男女が印象的です。
これはこれで、どことなく儚い印象もあるけれど。
東京都写真美術館の「マリオ・ジャコメッリ展」は
明日、5月12日が最終日となります。
静けさと力強さをはらんだモノクロームの展覧会。
あわせて館内のシアターで「ハーブ&ドロシー」を見ることをおすすめします。
現代アートのコレクター夫婦の、愛と感動のものがたり。
これについては、また別の機会にご紹介したいと思います。
今日も明日もがんばろう。
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