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足立区綾瀬美術館 annex

東京近郊の美術館・展覧会を紹介してます。 絵画作品にときどき文学や音楽、映画などもからめて。

ウォーターハウス「人魚」(夏目漱石の美術世界展より)

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好きな絵画を3つ挙げよと言われたら、
そのうちひとつは迷うことなくこの作品を選びます。
ジョン・ウィリアム・ウォーターハウス「人魚」。
ずっと焦がれ続けた傑作に、ようやく出会うことができました。
舞台は東京藝術大学大学美術館。
「夏目漱石の美術世界展」で、この作品が来日しています。


ウォーターハウス「人魚」2
Mermaid(1900)
John Williams Waterhouse




漱石の「三四郎」に登場するこの作品。
以前にもご紹介したことがありますので、
小説との関連性は過去記事を見ていただくとして……
今回は絵を見て感じたことをそのまま綴りたいと思います。


まず、際立って美しいのが人魚の肌です。
そそり立つ巌や寄せる波、海辺の石塊はやや粗く描かれているのに対し
人魚の肌は絹のように透き通り、
腰骨のうえあたりから妖しくきらめく銀鱗と化します。
柔肌と硬質な鱗、そのうえに落ちかかる赤茶の髪の毛。
ウォーターハウスが着想を得たテニスンの詩によれば、
人魚はこのとき、歌をくちずさんでいるのだそうです。
貝殻のような入れ物に真珠の首飾りを置き、人魚はかなしく歌います。
「誰が私を愛してくれるの……?」
髪を梳く手をとめ、青い目の奥に憂いを宿しながら。


視線を転じて岩のあいだからわずかに覗く空を見ると、
かすかにオレンジ色に染まっているのがわかります。
やがては夜のとばりが下りて
人魚は失意のうちに瞳をとじるのでしょう。
ぼくはこの絵の前で茫然となり恍惚となり
文字通り魂をつかまれたような気持ちになりました。
若かりしころの漱石がこの作品に魅入られたのも分かる気がします。
それほど強い魔力めいたものが、
「人魚」という作品には満ち満ちていました。



「夏目漱石の美術世界展」において、
ウォーターハウスの作品はもう1点展示されていました。
次回はそちらをご紹介したいと思います。





今日も明日もがんばろう。
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(2006/11)
ピーター・トリッピ

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