酒井抱一「月に秋草図屏風」(夏目漱石展より)
下に萩、桔梗、芒、葛、女郎花を隙間なく描いた上に、
真丸な月を銀で出して、其横の空いたところへ、
野路や空月の中なる女郎花、其一と題してある。
宗助は膝を突いて銀の色の黒く焦げた辺から、
葛の葉の風に裏を返してゐる色の乾いた様から、
大福程な大きな丸い朱の輪廓の中に、
抱一と行書で書いた落款をつくづくと見て、
父の行きてゐる当時を憶ひ起さずにはゐられなかつた。
(夏目漱石「門」より)
Autumn Grasses under the Moon(19th century)
Sakai Hoitsu
藝大美術館の「夏目漱石の美術世界」展。
やはりこの作品を紹介しない訳にはいかないでしょう。
酒井抱一「月に秋草図屏風」です。
小説「門」では主人公・宗助の父親が書画骨董を趣味にしており
死後、叔父の家に残されていた唯一の書画が抱一の屏風だったという設定で
冒頭の文章なわけです。
小説における描写と「月に秋草図屏風」では違う部分も多々あり
漱石の空想なのか、それとも別の作品を見ていたのか……。
なんにせよ、この重要文化財を見られただけでもありがたいと思わなければ。
金地に浮かぶ青い月はつめたい光を放ち、
そのしたで今、草木が芽吹きつるを伸ばし、花を咲かせているような……。
静寂のなかから混沌が生まれ、また静寂に立ち返っていくような……。
そんなことを屏風の前で寝ころんで
お酒飲みながら考えれたら楽しいだろうなーなんて思いました(笑)
ちなみに漱石は「虞美人草」でも抱一の作品を登場させており、
展覧会では赤と紫の虞美人草(ヒナゲシ)が妖しく咲く
銀屏風の再現展示も。
また、抱一の「宇治蛍狩図」という作品に対しては
「抱一ほどの人がどうしてこんな馬鹿なものを描いたかと思ふ位です」
と手紙のなかで容赦ないコメントも(笑)。
ぼくも正直あまりいい絵ではないと思ったけど、
それにしたって歯に衣着せぬ物言いはさすがだなぁと。
左:「虞美人草図屏風」(推定試作) 右:酒井抱一「宇治蛍狩図」
「夏目漱石の美術世界」展は7月7日まで。
先週の時点では、なかなかの混み具合でした。
既に2回行きましたが、ウォーターハウスの「人魚」をもう1度見ておきたくて……
次は静岡へ巡回なので、もし静岡出張とか入ったら
また見に行ってしまうと思います。
そのくらい見応えばっちりの展覧会ですよ。
今日も明日もがんばろう。
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