ブーシェ「ユピテルとカリスト」(プーシキン展より)
花盛りのフランス・サロン文化
その雅びな一時代を軽やかに描いた
ロココ時代の画家フランソワ・ブーシェの作品が、
横浜美術館の「プーシキン美術館展」で来日しています。
作品名は「ユピテルとカリスト」。
かのルノワールをも魅了した代表作「水浴のディアナ」に
負けず劣らず見事な脚線美に目を奪われ、
そしてただならぬ女性同士の語らいに思わずドキドキしてしまうわけですが……
右側の女性、男です。うわー
Jupiter and Callisto(1744)
François Boucher
右側の女性は、どこからどう見てもディアナです。
ディアナは月の女神、そして狩猟の女神。
額につけた三日月の冠や、周囲の矢筒、捕らえた兎や野鳥がそれをあらわしています。
ところがよく見ると、右後ろには翼を広げた鷲がこっそり描かれています。
これはローマ神話の最高神ユピテルの象徴。
つまりこの眉目麗しき女性、ディアナと見せかけて
おっさんユピテルなわけです。
左側の女性はディアナの従者カリストでして、
ディアナに化けて安心させておいて、いいことしちゃおうみたいなアレですね。
という感じで描かれた神話は非常に変態チックなのですが、
やはりそこはロココ時代を代表する画家だけあって
ただただ美しく華やかに描ききっています。
女性(?)2人の蠱惑的な表情仕種もさることながら、
頭上の枝で戯れるクピドたちも可愛らしい。
彼らが形作る半円形は三日月と呼応し、
さらに女性(?)たちによる三角形と結びついて
大きなS字をなしています。
木の枝による水平線といい、実に巧みな構図なんですよね。
ちなみにユピテルはギリシャ神話のゼウスと同一視され、
ディアナに化けたこのエピソードに限らず
牡牛に化けたり白鳥や鷲に化けたり、
さらには金色の雨となり……やりたい放題です(笑)
最高神からしてこれですから、神話の世界はトンデモエピソードのオンパレード。
西洋絵画の進歩の裏側には、こうした題材の面白さがあるんですよね。
真面目で禁欲的なキリスト教と、奔放で時に変態的なローマ・ギリシャ神話。
これらと名画のかかわりは、中野京子さんの著書で詳しく紹介されてます。
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さて、やんちゃで肉食系のユピテルですが
それだけに奥さんは気の休まる時がなかったのでは。
ユピテルの妻はユノ(ギリシャ神話ではヘラ)といい、
女性の結婚生活を守護する女神とされています(うわー)。
6月のジューン・ブライドはユノ(Juno)から来てますが
なんだかもう、結婚したら苦労しそうな気が……(笑)
プーシキン美術館展ではカルル・ヴァン・ローという画家による
「ユノ」という作品も展示されており、
こちらでは黄金の雲にゆったりと腰掛け、
穏やかな表情を見せるユノとクピド、
そして女神の象徴である孔雀が描かれています。
会場ではぜひ、「ユピテルとカリスト」と見比べてみてください。
浮気の真っ最中の旦那ユピテルと、余裕の表情の妻ユノ、
ある意味すごい取り合わせですから。

カルル・ヴァン・ロー「ユノ」。ユピテルより強いと思う。
今日も明日もがんばろう。



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