足立区綾瀬美術館 annex

東京近郊の美術館・展覧会を紹介してます。 絵画作品にときどき文学や音楽、映画などもからめて。

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高村光太郎「白文鳥」

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つがいの文鳥でしょうか。
一羽は瞳を大きく見開き遠くを見つめ、
もう一羽は目を細めて、そんな連れ合いを愛おしそうに見つめています。
高村光太郎「白文鳥」。
朴訥とした、命のあたたかみを感じさせる小品です。


高村光太郎「白文鳥」
Japanese Rice Bird(c.1930)
Takamura Kotaro




1918年を境にブロンズ彫刻の制作をストップした光太郎は、
1924年ごろから自身のルーツでもある木彫制作をはじめます。
「モデル費にあてる為」とあり、貧困のさなかで
比較的つくりやすく売りやすい木彫が思い浮かんだのでしょう。
このころ智恵子も体調を崩しており、
その医療費を捻出する目的もあったようです。


余儀なく始めたとは思えないほど彼の木彫はすぐれており
世間からも、そして父であり師である光雲からも高い評価を受けます。
光太郎自身も木彫のおもしろさを再認識したのか、こんな言葉を残しています。


何しろ日の余、時の余を以て木をいぢるのであるから、
数からいつてもむやみと沢山は出来ない。
しかし木彫は短歌のやうな面白みがあつて
此上もなく私の心を慰めてくれる。
彫つてゐながら如何にも気持ちがいい。



そして何より、これを喜んだのは智恵子だったようです。
蝉やザクロ、ナマズ、レンコンなど
身の回りの小さな動植物をテーマにした木彫に故郷の自然を見たものか
特に「白文鳥」は智恵子のお気に入りで、
着物の袂に入れて持ち歩くくらいだったのだとか。


高村光太郎「柘榴」
高村光太郎「柘榴」。彫り跡は粗いのに、不思議な実在感。



しかしその2年後、智恵子は自殺をはかります。
未遂に終わったものの、彼女のこころは徐々にこわれていってしまう。
高村光太郎の詩集「智恵子抄」では
智恵子に対する愛を高らかに歌った詩がならんでいますが、
1935年の「人生遠視」という詩では
ついに「自分の妻が狂気する」と描かれています。


実家の破産や油絵制作が思うようにいかないことへの苦悩、
そして東京の空気が肌に合わないことも大きかったようです。
一度制作に没頭してしまうと昼夜を問わずアトリエにこもる夫に対して
寂しさを募らせていたことも影響しているのでしょう。
光太郎は智恵子の母と妹夫婦を頼り、
千葉の九十九里での転地療養を決めます。
週に一度、智恵子をたずねる生活。
「人間であることをやめ」た智恵子にとって、
友達は尾長や千鳥などの小鳥たちでした。
「チィ、チィ」という鳴き声は、
あたかも智恵子を別世界に誘うものであったかもしれません。


群れ立つ千鳥が智恵子をよぶ。
ちい、ちい、ちい、ちい、ちい――
人間商売さらりとやめて、
もう天然の向うへ行つてしまつた智恵子の
うしろ姿がぽつんと見える。
二丁も離れた防風林の夕日の中で
松の花粉をあびながら私はいつまでも立ち尽す。

(高村光太郎「千鳥と遊ぶ智恵子」より)



千葉市美術館の「高村光太郎展」で冒頭の「白文鳥」を見たとき、
このエピソードが思い出されてひどく切ない気持ちになってしまいました。
小鳥のように幼く愛らしく、天上へ羽ばたいてしまった智恵子。
光太郎は後年、「亡き人に」という詩をつくっています。
ぼくが一番好きな詩で、そこでは智恵子を雀にたとえ、
そして独身時代に智恵子から贈られた思い出の花、グロキシニヤが登場します。
前にも一度紹介していると思いますが、
この詩をもって本日の結びとし、
次回は智恵子の切り絵について紹介したいと思います。



雀はあなたのやうに夜明けにおきて窓を叩く
枕頭のグロキシニヤはあなたのやうに黙つて咲く

朝風は人のやうに私の五体をめざまし
あなたの香りは午前五時の寝部屋に涼しい

私は白いシイツをはねて腕をのばし
夏の朝日にあなたのほほゑみを迎へる

今日が何であるかをあなたはささやく
権威あるもののやうにあなたは立つ

私はあなたの子供となり
あなたは私のうら若い母となる

あなたはまだゐる其処にゐる
あなたは万物となつて私に満ちる

私はあなたの愛に値しないと思ふけれど
あなたの愛は一切を無視して私をつつむ


(高村光太郎「亡き人に」)






おまけ。小鳥といったらこの曲でしょう。





今日も明日もがんばろう。
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