谷文晁「富士山図屏風」
富士山を多く描いた画家といえば
やはり葛飾北斎が思い浮かびますが、
同時期の画家にもうひとり、富士山で有名な人がいます。
名前は谷文晁。
北斎より3年あとに生を受けた、
江戸南画(文人画)を代表する人物です。
Mt. Fuji(1835)
Tani Buncho
こちらは谷文晁「富士山図屏風」。
白雲をまとった霊峰の姿は凛として、荘厳そのもの。
向かって右側の稜線には群青が用いられ、
モノクロームの仙境に清澄な趣を加えています。
富士の山容も実に美しく、心が洗われるようです。
谷文晁は「写山」と号していたこともあり、
写山の「山」は富士山のことを意味していたそうです。
渡辺華山などを輩出した画塾写山楼は
二階から富士を遠望することができ、
画壇の富士になるとの自任もあったのでは、とのこと。
大晦日の夜には、富士を描いた扇を江戸市中にばらまいたという逸話もあり
富士山図の名手として広く知られていたそうです。
この「富士山図屏風」は、サントリー美術館の
「生誕250周年谷文晁展」で展示されていました。
前期展示のみで、現在は「富嶽図屏風」という作品に入れ替わっています。
谷文晁は南画に狩野派や円山四条派、土佐派、洋風画など
各画法を取り入れ大成した江戸を代表する画家ですが、
あまりの多作と様式の幅広さゆえに実体が分かりづらく
展覧会でも序章は「様式のカオス」と題されているほど。
実際、会場で文晁の作品の数々を目の当たりにして
すごいな……と感じ入るものの、
はて具体的に何がどうすごいのかというとムムム…となってしまうわけで。
谷文晁「青緑山水図」。よくわからんけどすごい!
文人画をまとめて観る機会もあまりなかったので
これから少しずつ分かっていくのかもしれませんが、
他の人の感想を見ても「つかみどころがない」との言葉が多いんです。
逆に言えば、多様性があるぶん飽きることなく楽しめるかも。
前期と後期両方通いましたが、分からないなりにすごく面白かったですもん。
そして会場の最後に展示されているのが富士山っていうのがまたね。
見る角度や天候、そして見る人の心情によって富士山は表情を変えますが、
その存在は唯一無二で変わりようがない。
かくあれかしと願った画人の魅力に触れられる、素晴らしい展覧会です。
会期は8月25日まで、あとわずかなのでお早めに!
今日も明日もがんばろう。
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