葛飾北斎「富嶽三十六景 御厩川岸より両国橋夕陽見」
暮れゆく空、逆光によって浮かび上がる群青色のシルエット。
船上の人々は両国橋の向こうにそびえる富士に見惚れているのでしょうか。
葛飾北斎の「富嶽三十六景」より、
「御厩川岸より両国橋夕陽見」という作品です。
Watching Sunset over Ryogoku Bridge from Onmayagashi,
from the series Thirty-six Views of Mt. Fuji(c.1830)
Katsushika Hokusai
よく見るとこの浮世絵、実によく練られた構図であることに気付きます。
まず両国橋と舟の弧の対比。
なだらかなカーブはほぼ点対称で配置され、
川浪の表情と響き合います。
対岸線はほぼ画面の中央にあるにもかかわらず、
両国橋を細くシルエットのみで描き
舟を太く鮮やかに、そして人物を密集させて描くことで
下向きの力が加わり、安定感が増しています。
そして鳥刺が持つ竿は垂直に高々とかかげられ、画面を引き締めています。
すべてのものはコンパスと定規で描けるというようなことを
北斎は言っていたそうですが、
この作品もまた、円を意識して描かれているわけですね。
この浮世絵は三菱一号館美術館の
「浮世絵 Floating World」という展覧会で展示されていました。
全部で3期にわたって、川崎・砂子の里資料館の館長である
斎藤文夫氏のコレクションを公開するというもので、
残念ながら1期と2期を見逃してしまったんですが
3期では北斎や広重からはじまり、清親、芳年、周延などなど
江戸から東京への転換期に活躍した絵師の作品が並んでおり
どこかノスタルジックな浮世絵の数々が時代の移り変わりを物語るようでした。
この展覧会で特徴的なのが、日本の浮世絵だけでなく
美術館所蔵の西洋の版画を登場させている点。
一部屋に一点ずつくらいの登場頻度で、
最初は違和感ありありだったんですが
よく見るとなかなか面白い配置なんです。
たとえば今回ご紹介した北斎の「御厩川岸より両国橋夕陽見」ですが、
この隣にはフェリックス・ヴァロットンの「入浴」が。
バスタブの曲線を、北斎の曲線と比較しようという試みなんでしょうね。
他の西洋版画がどのような意図で配置されているか、
それを考えながら見ていくと、見慣れてしまった有名な浮世絵でも
新たな発見があるかもしれませんよ。
ヴァロットンは浮世絵をコレクションしていたそうなので、北斎の影響もあるのかも。
今日も明日もがんばろう。
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