森狙仙「猿図」(プライスコレクション展より)
もしも火事にあって、
自分のコレクションから1点だけしか持ち出せないとしたら——
そんな質問に対して、プライス夫妻が選んだのは
意外にも若冲ではなく、こちらの作品なのでした。
Monkey Looking at a Wasp(18th-19th centuries)
Mori Sosen
森狙仙「猿図」。
猿を描かせたら右に出るものはなく、
「猿描き狙仙」とも言われた江戸時代の絵師の作品です。
リアルに描かれた猿の視線の先には、小さな蜂の姿。
ジャンプして捕まえようとして、落っこちていくところという見方もあるそうです。
何にせよ、肩の力の抜けた実にユーモラスな作品なんですよね。
森狙仙は大阪で生まれ、狩野派を習得したのち
長崎に移ってオランダ人から西洋画を学びます。
確かな技術を身につけるも、得意になって猿を描いてみせたところ
ある猟師から「これは飼いならされた猿であって、本物の猿ではない」と
一笑に付されてしまいます。
おのれの未熟さに気付かされた狙仙は、ひとり山奥へ。
小屋を設けて数年にわたって野生の猿を観察し、数千枚の写生を行ったといいます。
鶏を見つめ続けた若冲といい、この狙仙のエピソードといい、
うむむ……江戸時代の絵師はやはりひと味違いますね。
あまりに猿を観察しすぎたせいか、
狙仙の容貌は猿そっくりだった、なんて話もあります。
こうしてようやく納得の行く猿を描けるようになった狙仙は、
当時の動物画の第一人者であった円山応挙に絵を見せにいきます。
応挙いわく、「真を超えて古今無双」。
そして応挙は名も知れぬ薄汚い絵師の技を研究し、
円山派に取り入れようとします。
すごいと思ったら貪欲に技術を盗もうとする、
このへんが応挙の偉いところですねぇ。
ところで前回紹介した森徹山ですが、
実は森狙仙の甥っ子で、のちに養子として迎えられています。
徹山は晩年の円山応挙に学び、応挙の息子・応瑞の妻の妹と結婚しており、
応挙はこれによって、森狙仙を筆頭とする森派を支援しようと考えていたようです。
やっぱり応挙はえらいなぁ。しみじみ。
さて最後にもう1点、猿にまつわる面白い作品を。
こちらはプライスコレクションではないんですが、
前に府中市美術館で見た、狩野探信の「猿鶴図」(猿のほう)です。
数えきれないくらいのお猿さんたちが
木の上から手をつなぎあって、川面にうつったお月様を取ろうとする場面。
一番先にぶら下がってるのは子猿で、これがまたかわいいのです。
今宵は中秋の名月、満月の輝く夜。
川に映った幻影とはいえ、
思わず手を伸ばしたくなるのも分かる気がしますね。
今日も明日もがんばろう。
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