モロー「パルクと死の天使」
フランス象徴主義の巨匠、ギュスターヴ・モロー。
歴史や神話を題材とした作品を得意とし、
ジョルジュ・ルオーやアンリ・マティス、
アルベール・マルケらの師としても知られています。
国立美術学校で画家志望の若者達に対し、
デッサンよりも色彩の重要性を説いたモローがいたからこそ
フォービスムという鮮烈な色彩表現が生まれたのかもしれません。
そんなモローと、一番弟子のルオーに焦点をあてた展覧会が
パナソニック汐留ミュージアムで開かれています。
The Park and The Angel of Death(c.1890)
Gustave Moreau
こちらはギュスターヴ・モロー「パルクと死の天使」。
炎の剣をかざし、馬にまたがる死の天使と
手綱をひく老いたるパルク。
死への道行きのようなこの作品には、
親友が死去したことに対するモローの絶望が込められているそうです。
岩肌は冷たくとがり、真っ赤な太陽が沈んでいく光景は世界の終わりのようで
画家の嘆きがひしひしと伝わってきます。
この作品、間近で見ると
実に激しいマティエール(絵肌)であることに気付かされます。
パレットナイフを用い、塗り重ねた絵の具を引っ掻き、こそぎ落していく。
ここにモローとルオーの技術的なつながりが顕著に見えてくるのです。
そのフォルムと色彩において、
ルオー作品と完全に繋げて考えることのできる唯一の作品である。
図録にはこんなことが書かれていました。
ルオーがたどり着いた、祈りを重ねるような厚塗りの絵肌を
師であるモローが実践していた、と。
ルオー「我らがジャンヌ」。
モローがフランスの国立美術学校の教師に就任したのは1891年、65歳のとき。
華やかな画壇の表舞台から身を引き、
その後自宅で自分のための制作に没頭していたモローは
言ってみれば引きこもりのような状態だったのでしょうけど、
教壇に立ってからの彼の教えは実に型破りで奔放なものだったといいます。
デッサンを重視する校風に反発し、若き学生達に諭したのは
マティエールと内的ヴィジョンへの感覚を尊ぶこと、
そして色彩についての想像力でした。
モローが最も愛した弟子は、
「レンブラントの再来」とも評されたジョルジュ・ルオー。
教師就任から2年後、モローは自らが成し得なかった
最高峰ローマ賞受賞の夢をルオーに託しますが、
惜しくも最終選考で落選してしまいます。
95年にも同様に最終選考で落選したルオーに対して、
ついにモローは学校を去ることを薦めるんですね。
ルオーの特異な才は学校に縛り付けるべきものではなく、
モローの理想もまた、学校の方向性とは異なるものであったから。
「私は、君を、私の絵画教義の代表者だと見なしています。
君が(美術学校のコンクールで)成功しない最大の理由はそこにあります」
展覧会場ではモローとルオーそれぞれの作品だけでなく、
2人がかわした手紙も展示されていました。
「親愛な我が子」「偉大なる父」と呼び合う2人の文面からは
強い絆と、互いを尊敬する思いが伝わってきました。
45ほども歳の離れた2人ですが、その親愛の情には心打たれるものがあります。
モローが亡くなって後もルオーは師への敬意を抱き続け、
モローもまた、自宅を改修したモロー美術館の館長にルオーを推薦することで
死してなお、ルオーを導き続けました。
パナソニック汐留ミュージアムの
「モローとルオー 聖なるものの継承と変容」は12月10日まで。
作品数はやや少なく、内容もどちらかというと玄人向けな印象ですが
日本初公開の作品も多く、何よりモローとルオーのつながりを知るうえで
非常に貴重な展覧会であると思います。
また、モローの「油彩下絵」と呼ばれる、抽象画のような作品群。
まさに彼の言う「色彩」と「内的ビジョンへの感覚」のあらわれのようで、
画家の新たな一面を知ることができました。
それでは最後に、モローがルオーに贈った言葉をいくつか。
友よ、君が思う道を行きなさい。
ただ素直に、心静かに、自分自身を追い求めさえすればよいのです。
君には既に大いなる才能が宿っており、
道半ばで挫折する心配などないのですから
君は若くしていろいろな経験をしていますが、
それでも、自分自身の人生を生きることを学ばねばなりません。
本で学んだ理論ではなく、現実から、自分自身のために学ぶのです。
人生からあまり逃げてはいけませんよ
君は画家だ。そして、この先君が何をしようとも画家であり続けるのです
おまけ。The Notwist「Consequence」。最近お気に入りの曲です。
今日も明日もがんばろう。
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