川瀬巴水「尾州半田新川端」
しんしんと雪が降るなか、
犬一匹を道連れに川沿いを歩く男。
轍のように雪の積もらぬ道があるのは
少し前まで人々が往来していたからでしょう。
けれど今は、誰もいない。
軒並み灯りはともらず、かろうじて左奥の家に人心地が感じられます。
ここが男の帰る場所なのかもしれません。
川瀬巴水「尾州半田新川端」。
「東海道風景選集」のなかの1枚です。
Snow at Shinkawabata, Handa, Bishu(1935)
Kawase Hasui
今年最後の美術館参りは、千葉市美術館の「川瀬巴水展」にしました。
生誕130年を記念しての展覧会で、
版画はすべて、版元の渡邊木版から。
巴水の木版画家としての歩みはここから始まり、
よって最初期から晩年まで、巴水の画業を総ざらいするような内容になっています。
大田区立郷土博物館の展示とは異なり、
水彩画が多く展示されているのも見どころ。
版画のための下絵として描いたものもあれば、
純粋に作品として残したものもあり、
そのプロセスを想像するのも楽しいものです。
雪つながりでいくつか見てみましょう。
たとえば晩年の作品「増上寺の雪」。
42度もの摺りからなり、
一つひとつ色が重なっていく過程は館内のビデオで見ることができます。
その精緻さにただただ圧倒されるばかりでした。
ちなみに増上寺と雪の取り合わせは巴水がたびたび選んだ画題であり
1922年の「雪の増上寺」や有名な東京二十景の「芝増上寺」などがあります。
「増上寺の雪」
また、「尾州半田新川端」に輪をかけて寂しさがつのる「高野山鐘楼」や
以前もご紹介した絶筆「平泉金色堂」など……。
巴水というと個人的には月の光や青い夜空を連想しますが、
こうして見ると雪景色にも傑作がたくさんあることに気付かされます。
左「高野山鐘楼」、右「平泉金色堂」
巴水が版画家を志したのは、
渡邊木版から出版された伊東深水の
「近江八景」という連作を目にしたのがきっかけだそうです。
今回の展覧会では、所蔵作品展として
巴水と同時代に渡邊木版から作品を発表した画家が取り上げられており、
そのなかには伊東深水の「近江八景」もありました。
巴水の初期作品は少しもたっとしていたり、光よりも影が気になったり、
でも構図が面白かったりとまた違った味わいがあるのですが、
「近江八景」を見てあぁなるほど、とひとり納得した次第です。
伊東深水「近江八景の内 石山寺」
このブログではじめて巴水を紹介したのは東日本大震災の少しあとくらいでした。
それ以前はそんなに名前を聞く機会もありませんでしたが、
近年とみに評価が高まっているのはファンとして実にうれしくて。
今年は全部で110くらい展覧会を見てまわりましたが、
巴水の作品をあちこちで見れたのが何よりありがたかったです。
千葉市美術館の「川瀬巴水展 - 郷愁の日本風景」は2014年1月19日まで。
その後、大阪高島屋、横浜高島屋、山口県立萩美術館・浦上記念館、京都高島屋と巡回し、
2015年1月からは日本橋高島屋へとまわってきます。
ですので関東近辺の方は3か所から選べるわけですね。
自分の場合……3か所とも行ってしまいそうだな(笑)
■「川瀬巴水展 - 郷愁の日本風景」の公式サイトはこちら
■川瀬巴水の作品一覧はこちら
今日も明日もがんばろう。
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