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足立区綾瀬美術館 annex

東京近郊の美術館・展覧会を紹介してます。 絵画作品にときどき文学や音楽、映画などもからめて。

長次郎「黒楽茶碗 銘俊寛」

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新年最初の展覧会参りは三井記念美術館にいたしました。
毎年恒例の国宝・円山応挙「雪松図屏風」に加えて、
三井家に伝わる茶道具、なかでも楽茶碗が揃い踏み。
長次郎から15代吉左衛門まで、楽家歴代の茶碗が展示されていました。
ということで、まずはこちらから。


長次郎「黒楽茶碗 銘俊寛」



楽家の初代・長次郎による「黒楽茶碗 銘俊寛」。
茶の緑がもっとも映えるのは何色であるか——。
それに対する千利休の答えが黒でした。
時の権力者・秀吉はこの色合いを忌み嫌ったものの、
利休は黒にこだわり、そして黒楽茶碗は代々楽家に受け継がれていきます。


長次郎については、作家の山本兼一が興味深いことを書いています。
美術館や博物館で展示されている長次郎のなかには、
大変かせている(表面が乾いてかさかさしている)ものが多いのですが、
試しにお茶を点ててみたらどうなったか。
以下、引用です。


——一度使ってみよう。
と思い立ち、学芸員一同集まって試しにお茶を点ててみたそうである。
すると、「野晒」という落語にあるように、
髑髏にお酒をかけたごとく、かせていた肌がふわっと柔らかく、
花が咲いたように明るくなった——。
眠っていた茶碗が、お茶の功徳で蘇ったのだ。
使ってこその茶碗だとしみじみ感じ入った話である。

長次郎の黒茶碗でお茶をいただいたら、冬の寒い日だったにも関わらず、
お茶がいつまでも冷めなかったとべつの人から聞いた。
黒楽茶碗は、高温ながら短時間の焼成だそうだ。
赤楽茶碗は、低温で短時間の焼成だという。
いずれにしても短時間の焼成なら、土は焼き締まらず軟らかいままの状態だろう。
多孔質で保温力があるに違いない。
多孔質だからすぐにかせるが、また蘇りもするのだろう。
(山本兼一「利休の風景」より)



そもそも今年最初の展覧会に三井記念美術館を選んだのも、
この本を読んで長次郎の黒楽茶碗を見たくなったからなのです。
無骨なようでいて実は繊細な造型は、やはり茶を入れてこその誂えなのでしょう。
まるで命あるもののように、その肌は茶を点てることで蘇り、
しっとりとなめらかに両の手に吸い付いてくるのでしょうか。
わずかな歪みもまた、手のひらにことのほか心地よく添い従い
ぬくもりが直に伝わってくる……。
そんなことを妄想しながら鑑賞するのは
新年にふさわしくとても贅沢で幸せなことでした。
いつか自分も、黒楽茶碗でお茶をいただけたら……。
緊張して落っことして割ってしまいそうですが(笑)




今日も明日もがんばろう。
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利休の風景利休の風景
(2012/11/22)
山本 兼一

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