足立区綾瀬美術館 annex

東京近郊の美術館・展覧会を紹介してます。 絵画作品にときどき文学や音楽、映画などもからめて。

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モロー「自画像」と遺書

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ギュスターヴ・モローの「自画像」。
1850年、24歳のときの作品です。
現存する作品の中では最初期に属し、
当時モローが傾倒していたドラクロワの影響が見てとれます。


自画像
Self-portrait(1850)
Gustave Moreau




国立美術学校で学んだモローは
前年の1849年、ローマへの国費留学をかけて
ローマ賞に挑むものの、あえなく失敗。
「自画像」を発表した1950年には
進路についてドラクロワに相談し、
シャセリオーと親交を結び社交界に出入りするようになるなど
モローにとっては転機の年だったようです。
↓はドラクロワの自画像。

自画像
Portrait d'Eugène Delacroix(1837)
Fedinand Victor Eugene Delacroix



モローは多くの作品に自筆の解説を残しており、
洗練された文章、文学性の高さも特筆に値します。
これらの文書資料をまとめた作品が
「ギュスターヴ・モロー 夢を集める人」。
本家はフランス版で、日本でも同タイトル・同テーマで
まとめられた作品が発刊されています。
その中にモローの遺書が掲載されており、
すばらしい内容だったのでご紹介したいと思います。


名残り惜しいことがあるとすれば……

仕事、絶えまない研究、努力によって私自身の存在を開花させること、
芸術において、より良きもの、稀なるもの、目に見えぬものを追い求めること。
思いがけない道具の発見。労働者の仕事。
日々すこしずつ高め、和らげ、理想的なものにしてゆく。
頭脳が望むこと、その夢想、着想。
ひとたび最初のアイデアが浮かべば、今度は、
それに無数の手を加え、無限に組み合わせる。
内面の出来事。この造型という聖なる言語に可能な無限の組み合わせ、
その外見上の物質性に隠された、すべてにおいて理想的な言語。

秋の日の悲しい夜明け、和らいだ夕暮れ。
夏の夕方の薄明かりの道。
枯葉の舞う森の小道、足音がかすかに響く人気のない小道。
ローマ平野の三月の青空、
もうけっして見ることはないだろうあの空。

ルーヴルの作品。いにしえの巨匠たち。
すばらしい作品を通して聞こえる彼らの沈黙の会話。
失われた時代への精神への旅。絶えた文明を訪れること。
今では神話となった時代を想像力で蘇らせること。
未知の、未踏の、近寄りがたい国々を駆け回ること。
どんな人間の目にも踏みにじられていないあの植物相(フロール)を夢みること。
漠とした夢想。目的なく、終わりなく、動機なく、絶えず新たにされる夢想。
本の中に見出される他人の思想を知る喜び。
人間という存在を、その心理学的、哲学的、批評的、道徳的、宗教的
すべての現れにおいて研究することへの興味。

音楽、高貴なる音楽。
昔私の無上の喜びであったもの。
今、それは幾分香りの薄らいだ香水のようだ。

神聖な教会の外陣。
いかにも神秘的な雄弁さを持つ古代の彫刻群。

祝福された仕事の疲れ、そのあとでもぐり込むベッド!
生命、つまり私の中の炎、けっして満たされることのない情熱。
珍しく、美しいすべてのものに対する情熱。
それは本質を変え、私固有の弱さを奪っていくだろう。
弱さは、私を苦しめ、そして愛させる。
動揺する私の存在。つまるところ私という自己。

しかし、そういったすべてのことは、
思い出されることがなければ無に等しい。
愛する存在がなければ、すべては色あせ、曇り、消えてしまうのだから。
人が懐かしむのは、夢に過ぎないのだ。
人生とはそういうものなのだろう、夢とは。
けれども、なんと汲み尽くせぬ興味の奥深さを持ち、
力強い緊張感にあふれているのか、人生は!

   (「ギュスターヴ・モロー 夢を集める人」より。訳:藤田尊潮)



1897年、71歳。
モローは胃癌の症状を自覚するようになり、
それが治療不可能であることを悟った日に、
死を覚悟して上記の文章を書いたそうです。
芸術家の精神性、尽きせぬ好奇心と人生への讃歌が表現された名文だと思います。



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(2007/02)
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