板谷波山「葆光彩磁草花文花瓶」
わたしたちは、氷砂糖をほしいくらゐもたないでも、
きれいにすきとほつた風をたべ、
桃いろのうつくしい朝の日光をのむことができます。
(宮沢賢治「注文の多い料理店」序文より)
板谷波山「葆光彩磁草花文花瓶」。
可憐なチューリップを大胆に配した、
アール・ヌーヴォーの曲線を思わせる軽やかな作品です。
桃源かくやあらんと思わせる夢想的な色合いと
光を内側にはらんだようなしっとりとした表情は「葆光彩」と呼ばれ、
光だけでなく花の香りやそよ風までも封じ込めたよう。
近代日本を代表する陶芸家、板谷波山による独創的な世界を、
出光美術館で堪能することができます。
「葆光彩磁鸚鵡唐草彫篏模様花瓶」。その表情は官能的でさえある。
上述の「葆光彩」の他、薄肉彫という彫刻の技を活かした「彩磁」も素晴らしく、
また星雲や結晶をうつしたような煌めく陶芸も、息をのむほどの美しさ。
ガラスではなく陶芸というかたちで光を手中におさめた波山の技術に圧倒されました。
展覧会で印象的だったのが、これら作品群の解説文。
夏目漱石や与謝野晶子、北原白秋、宮沢賢治、泉鏡花などなど
同時代の文学との関連性に言及するもので、
文学好きにとってはたまらない演出なのです。
たとえば冒頭の宮沢賢治の一文。
波山がこだわった「白」に対して会場で引用されていたものですが、
彼の作品に見事にマッチしていると思いませんか?
きれいに透き通った風、桃色の美しい朝の日光。
この文章を会場で見た瞬間、「してやられた!」という気持ちになりました。
左「彩磁月桂樹撫子文花瓶」、右「朝陽磁鶴首花瓶」
板谷波山のことを知ったのは一昨年、
たしか日曜美術館のアートシーンのコーナーだったと思います。
画面にうつる気品ある佇まいに魅了され、
その後、東京芸術大学のコレクション展や
京都国立美術館の「皇室の名品」などで作品を見る機会に恵まれ、
まさに夢見心地な体験をさせていただきました。
そして待ちわびた、都内での回顧展。
没後50年を記念する「板谷波山の夢みたもの」というタイトルで、
ふくらんだ期待に十全にこたえてくれる、非の打ち所のない展覧会です。
会期は3月23日(日)まで。
全力でおすすめします。
今日も明日もがんばろう。
- 関連記事