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足立区綾瀬美術館 annex

東京近郊の美術館・展覧会を紹介してます。 絵画作品にときどき文学や音楽、映画などもからめて。

鈴木其一「朝顔図」

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同じ色の朝顔の花群は人間の連のようにも見えて、
どこでどう繋がっているのか、
渦巻きながらそこここで蔓の先が躍動している。
にぎやかで明るく、ゆったりとして優しく、
それでいて痛さを覚えるのは傷口に沁みるような色彩のせいであろう。
溢れ出る言葉は其一を喜ばせて、顔をあげると彼の目も笑っていた。

(乙川優三郎「麗しき花実」より)


鈴木其一「朝顔図」
Morning Glories
Suzuki Kiitsu





輝くような金色は、朝の光でしょうか。
そのなかに渦巻く群青と緑青。
メトロポリタン美術館所蔵、鈴木其一の「朝顔図(左隻)」です。
鈴木其一は江戸琳派の祖、酒井抱一の弟子にして家臣。
宗達、光琳と受け継がれた琳派の様式に「情緒」を持ち込んだ抱一に対して、
其一の作品は時にひんやりと冷たく、厳しいほどの眼差しを感じます。
そしてあまりにも鮮烈な色彩。
師風を突き抜けようと其一が求めたものこそ、この色彩だったのでしょうか。


冒頭で紹介した文章は、
乙川優三郎の「麗しき花実」という小説から引用したものです。
主人公は女蒔絵師の理野。
修業先の江戸で兄を亡くした彼女が
密かに心を寄せる男性として登場するのが鈴木其一です。
物語の根幹を成すのは工房制における代作の矛盾と葛藤であり、
理野は原羊遊斎の、其一は酒井抱一の代作を手がけることに疑問を抱き
それぞれの師風を超えて独自の表現を求めるようになります。
理野は漆の闇に女の情念を蒔き、
其一は朝顔の鮮やかな色彩に光を見る——。
具体的な作品名は物語では明かされませんが、
おそらく乙川さんがイメージしていたのはメトロポリタンの「朝顔図」ではないかと思います。


小説では其一や抱一、原羊遊斎のほか、谷文晁、尾形光琳、小川破笠など
まさに垂涎の顔ぶれで物語が展開していきます。
読み終わったあとは、千葉市美術館の「酒井抱一と江戸琳派の全貌」の図録を開き、
その華やかな作品世界に思う存分浸りました。
なぜ抱一が琳派にこだわったのか、
尾形光琳とのかかわりや「夏秋草図屏風」制作のエピソード、
そして其一の色彩のルーツなどなど
非常に勉強にもなる一冊です。琳派好きの方はぜひぜひ。




今日も明日もがんばろう。
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(2013/05/08)
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